薔薇の芽や私と僕の不等式
スコーンにジャムのゆつたり荷風の忌
素つ気なき薬草園や春日傘
蜆汁期待外れのドラマなり
鈴の音の広がりゆける花鎮め
佐保姫の夢の終りに残る月
シクラメン遺影の母の弾くギター
一列に好戦的な緋の躑躅
結末を決めかねてをり春の鴨
谷戸坂やうぐひすの声はにかみて
蒲公英の絮のまんまる聖歌隊
葉桜をすれ違ひゆく言葉たち
最後まで名前は呼ばず春夕焼
蝮蛇草埋蔵金の言ひ伝へ
カラオケのマイク躱してもづく食ふ
鳥の巣を見つけ休憩終はりをり
春の星最後の曲を弾きはじむ
路線図の絡む八十八夜かな
楽譜から飛び立つ音符夏蜜柑
よき答待つてゐる耳犬ふぐり
藤房の揺れる未練のあるやうに